「KOBE Innovation Night
~神戸を知る、神戸と繋がる~」

Venture Café TokyのフラッグシップイベントThursday Gathering。今回は2026年3月19日に開催されたセッション「KOBE Innovation Night ~神戸を知る、神戸と繋がる~」をレポート。二部構成で神戸のイノベーションが生まれる背景と魅力をご紹介します。
最初のトークセッションは「神戸のイノベーション・エコシステムの未来を語る」というテーマでパネルディスカッションを進めていきます。神戸のエコシステムを支えるキーパーソンが一堂に会し、それぞれが果たす役割や連携のあり方、そして地域としてどのように差別化を図っていくべきかを深掘りします。
セッション①「神戸のイノベーション・エコシステムの未来を語る」
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登壇者(敬称略)
- 篠原 佳也 株式会社神戸新聞社ANCHOR KOBEゼネラルマネージャー
- 中西 雅幸 特定非営利活動法人コミュニティリンク 代表理事
- 横山 哲也 CIPPo 代表取締役
- 竹下 竜介 神戸商工会議所 産業部次長
モデレーター :
- 武田 卓 神戸市東京事務所長
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スタートアップ支援の変遷と地元の温度感の変化
このセッションではスタートアップ支援拠点、スタートアップ、経済団体、行政がそれぞれの視点で神戸のエコシステムについてディスカッションを行いました。
神戸市はかなり早い時期からスタートアップ支援に取り組んできた自治体としても知られています。内閣府が認定した世界に伍するスタートアップ・エコシステム(生態系)を構築・強化するためのグローバル拠点都市の一つとして「大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム」として選定されています。
「神戸市では早くからスタートアップ施策に取り組んできており、自治体の課題解決のためのPoC(実証実験)、海外に出て行くスタートアップの支援、逆に海外から入ってくるスタートアップと地元の企業のマッチングなど多彩な支援を行っています。また、自治体としては珍しくファンドも設立しており、スタートアップに投資できる環境があることも特徴となっています」と語るのは、セッションのモデレーターを務める神戸市東京事務所長の武田卓さん。神戸市がスタートアップ支援を始めたのは2016年とのことだといいます。

「当時はオープンイノベーションという言葉がまだ浸透しておらず、何か呼び掛けても全然響かないという状態でした」
と語るのは、神戸商工会議所 産業部次長の竹下竜介さん。神戸商工会議所では日本や地方を活性化するためのイノベーションを起こすような様々な取り組みを実施しています。一昨年12月には新規事業に取り組んでいるキーパーソンが集結した「神戸イノベーション・コミュニティ」を立ち上げ、現在は112社が参加。企業によってまだ温度差はあるものの10年前、5年前と比べると全く違う状況になってきているといいます。

「コロナ禍で一気にスタートアップへの注目度がアップした」と指摘するのはANCHOR KOBE(アンカー神戸)の篠原佳也さん。神戸新聞の記者として約20年間従事し、現在はスタートアップ、地元企業、大学、研究者などが、業界の垣根を越えて交流し、イノベーションを創出するビジネス交流拠点ANCHOR KOBEのゼネラルマネージャーを務めています。
「これからの社会やビジネスを乗り越えるためにもつながりや協力を求める方が増えています。企業同士が神戸のエコシステムの中でどんどん連携し、大阪など他の地域にも進出しながら成長していく流れが構築されてきていると感じています」と篠原さん。
スタートアップとの接点が多いインキュベーション施設「起業プラザひょうご」を運営するNPO法人コミュニティリンク代表理事の中西雅幸さんは、現状を次のように語ります。「神戸の起業家はあまり自分を前に出さない人が多いのですが、コミュニティの中ではしっかりとコミュニケーションが取られており、情報の共有や蓄積もかなり進んでいると思います。特にこの7年くらい、その傾向が強まっていると感じますね」
スタートアップ側の視点で意見を述べるのはCIPPo代表取締役の横山哲也さん。現在はフードロス削減事業「wakeatte」で新たな挑戦を展開中です。
「東京と比べればまだ少ないとはいえ、スタートアップの数やコミュニティが拡大してきている背景には、ANCHOR KOBEさんや起業プラザひょうごさんのような施設の存在も大きいと思います。そこに行けば誰かに会えるし、講演やイベントも行うことができます。東京まで行かなくても、ここ神戸でやっていけると感じるほど神戸は変わってきたと思います」

協力体制やネットワークの重要性
エコシステムの形成には、各機関の協力体制や、国内外のネットワークも重要になります。
「一昨年の12月からカウントすると今までに約240件の『お引き合わせ』を実施している」という竹下さん。神戸の経済団体なので地元のことには強みがあるものの、グローバルの情報網は弱いので、いろいろな人や機関と連携しながら補完しているといいます。
みなと銀行さん、三井住友銀行さん、信金さんなど結構な数の金融機関が集まり結成した「金融部会」について言及するのは中西さん。
「スタートアップがクローズドで金融部会にピッチを行い、そこから実際の融資やデッドファイナンスにつながったこともあります。神戸というのは、中小から大手企業まで色々巻き込んでやりやすい場所だと感じています」
さらに中西さんは「神戸出身で東京で活躍されていらっしゃる方も多く、そのような著名な方々を神戸にしっかり巻き込んでエコシステムを拡大していくことも重要」ともいいます。東京との連携の重要性はモデレーターの武田さんも指摘しています。
神戸のエコシステムにおけるメディアとしての役割を神戸新聞がどのように担っているかについて述べるのは篠原さん。
「たとえば神戸新聞がある会社を取り上げたことをきっかけに、全国紙、大阪の民放、東京のキー局が取り上げるようになることがあります。このように「ニュースを育てる」起爆剤として神戸の面白い企業を紹介し続けるという役割が神戸新聞にはあると思っています」

横山さんは実際にその恩恵に預かっているといいます。
「例えば東京だと新聞社さんに「こんなことやるので取り上げてほしい」とお願いしてもなかなか実現しませんが、神戸新聞さんなら100%に近い確率で取り上げていただくことができます。それをきっかけに全国紙やテレビで紹介してもらえることもあるので、非常にありがたいですね」
また篠原さんはANCHOR KOBEとしての立場から、海外連携の強化についても説明。
「昨年は特に台湾や韓国との連携を強化。ピッチイベントを行い、神戸の企業とつなぐ取り組みも行いました。来年からはベトナムやシンガポールなどにもリーチを広げ、日本の企業が海外進出する際に支援したり、逆に海外のスタートアップが日本進出を考えたときに、神戸を選んでもらえるような役割を果たしたいと考えています」
多くの企業、組織などが地道に多彩な取り組みを行っている神戸市ですが、課題としては、イベントなどの登壇者が被ったり、同じスタートアップに支援が集中したりすることなどが挙げられました。このような“重複”を改善するために、関係者同士ができるだけ集まって情報を共有、どこでどんな事業が行われているかの理解が進んでいるといいます。
「他の都市と比べても、課題解決に関してはかなり先進的な地域だと思います。『これほど意思疎通を密接にやっている地域はない』と羨ましがられることもありますよ」と竹下さん。

神戸が描くイノベーション・エコシステムの未来とは
セッションの最後のテーマとしてモデレーターの武田さんは、神戸が描くイノベーション・エコシステムの未来について問いを投げかけます。
「主要なプレイヤーはかなり可視化できていると思います。ここからさらに成長していくためには何が必要なのでしょうか」
「地元企業の皆さんの実際の声のヒアリングを引き続き行っていきます」というのは竹下さん。神戸はコンパクトなだけに誰が何をやっているかの可視化もしやすいので「AIを賢く使ってデータベース化し“思ってもみないような連携”を後押ししたいですね」ともいいます。
中西さんも「他の地域に先駆けてデジタル化を進めていこう、というのは今考えているところです」と語ります。
デジタル庁のハッカソンで最優秀賞を受賞したこともある気鋭のスタートアップとして活躍する横山さんに対して武田さんは「数の上では圧倒的に東京が多いので、神戸としてはもう少しインパクトのある成果を狙う必要があるのではないか。成果をどのように生み出そうとしているのか」を問いかけます。
横山さんは、東京至上主義的な風潮があることは認めつつ「私たちは“神戸ならでは”のスタートアップだと思っています」といいます。
「東京にいるスタートアップのなかにも、実は神戸に来たほうが活躍できるというケースが少なくないと感じます。神戸はコンパクトなだけに皆さんの顔が見える関係で、何でも相談できる土壌があります。お互いの立場を理解しながら関係性を構築しやすいのは神戸の特徴です。そのあたりをもっとアピールすることも必要かもしれません。私たちのようなスタートアップがまず成功しないと様々な取り組みもあまり意味がないので、だからこそ、私たちは頑張るしかないと考えています」
セッションの最後に武田さんは、「ここにいるプレイヤーの顔ぶれは神戸ならでは。誰がキープレイヤーか見えているので、必要であれば紹介もできる。セッション終了後のネットワークをぜひとも活用してほしい」と締めくくりました。

セッション②:自治体発の官民連携ファンドは成功しているのか
2つ目のトークセッションは「自治体発の官民連携ファンドは成功しているのか」をテーマに、地域経済に循環を生み出す基盤づくりに挑む神戸市の官民連携ファンドに焦点を当てます。全国的にも珍しい自治体が起点となったスタートアップファンド。その設立の経緯や運営の実態に加え、自治体・VC・スタートアップそれぞれの立場から見た官民連携ファンドの意義や期待についてリアルな声をご紹介します。
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登壇者(敬称略)
- 閔 弘圭 株式会社Liberaware 代表取締役
- 佐藤 尚平 株式会社トランスファーデータ取締役 コーポレート戦略本部長
- 高見 直矢 神戸市新産業創造課 イノベーション専門官
モデレーター :
- 細野 尚孝 BIG Impact株式会社 代表取締役CEO
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神戸の官民連携ファンドの特徴とは?
神戸市は、地域経済の活性化と県内産業の競争力の向上をはかるため、兵庫県や民間企業等と連携し、飛躍的な成長が見込まれるスタートアップへの投資を行う「ひょうご神戸スタートアップファンド」を2021年3月に設立しています。
ファンドの特徴や強みに関して、GP(General Partner)として運営を担っているBIG Impact代表取締役CEOの細野尚孝さんは次のように説明します。
「日本では官民が連携したファンドというのは非常に限られています。特に神戸市さんのように自分たちでGPを募集して立ち上げたというケースは稀有で大きな特徴の一つといえます。ファンドのLP(Limited Partner)として参加している企業は、神戸新聞さん、みなと銀行さん、三井住友銀行さん、ゆうちょ銀行さんなど。規模としては約11億円で、他の独立系のファンドから比べるとやや小ぶりではありますが、初号ファンドとしては一定の規模感があると思っています。現在は新規の投資が全部終わり、これから回収に向かっていくというようなフェーズになっています」
「ひょうご神戸スタートアップファンド」が出資をしているスタートアップは19社で、今回のセッションの登壇者でもあるLiberaware、トランスファーデータにも出資をしています。
「LiberawareさんはすでにIPOを果たしていますし、トランスファーデータさんもIPOが視野に入るところまで来ています。このほかM&Aも2件ほど出ていますし、ファンド全体の進捗は悪くないと思っています」と細野さん。

細野さんと一緒にスタートアップファンドに携わる神戸市新産業創造課の高見直矢さんは、ファンド設立の目的などに言及します。
「神戸市は全国の自治体の中でも先駆けて様々なスタートアップ支援を行ってきました。特に地方は資金獲得の機会が限られがちですが、行政としてしっかり資金提供もしていきたいということ、また我々が呼び水になることで地域の企業さんにスタートアップ支援に参画していただこうという狙いもありファンドを組成しました」
ファンド設立から5年経った現在、他の事業と組み合わせて、出資額以上の価値が生み出せるような施策に着手しているところだという高見さん。神戸市では2025年度の予算でファンドへの出資が増額されたといいます。
「これまで以上の規模でしっかりとファンドに投資ができることになったのは、大きな成果の一つだと思っています」
高見さんは「官民連携ファンド」がもたらした成果として雇用の創出も挙げます。
「ファンドを作ったことにより、地域に30人もの雇用が生まれました。結局のところ我々の本質はまちづくり。ファンドを通じて神戸に進出していただいたり、地域の企業さんと組んでビジネスをしていただくなど、お金以上の価値がありました」
細野さんも「神戸が構築したモデルを他の地域でも展開できるようになると、日本全体のスタートアップ・エコシステムが盛り上がってくると思います。神戸市さんの取り組みが他の方面にもうまく繋げられたらいいですね」と述べます。
スタートアップが語る官民連携ファンドのリアル
Liberaware代表取締役の閔(みん)弘圭さんと、トランスファーデータ取締役の佐藤尚平さんは、実際に出資を受けたスタートアップの視点から本音を語ってくれました。
Liberawareは屋内点検分野に特化した小型ドローンの開発及び点検ソリューションを提供する会社。本社は千葉県にあり、神戸にも顧客は存在するものの、特にこの地域と深いつながりがあったわけではないといいます。
「神戸のコミュニティと連携するには地域文化を理解することも大切だと思います。神戸に行く頻度を高めるなど、地道な努力は結構しました」という閔さん。官民ファンドから出資を受けることのメリットについては、「珍しいので興味を持ってもらいやすいこと、“官”が関わるファンドということで安心感を与えるということ」などを挙げます。

「かなり意図的に神戸を狙い撃ちした」と語るのは佐藤さん。トランスファーデータはAI技術を活用したクラウド出張管理システム「AI Travel」を中心に、法人向けバックオフィスDX事業を展開する企業です。本社は東京ですが、支社を神戸市に設置しています。
「旅行業界にとって西の玄関口というのは兵庫なんです。自分たちのビジネスモデルにとって神戸は非常に重要な場所ですし、そこから出資を受け、拠点を置くというのはすごく大きなアピールになります」
2拠点目として神戸に進出したのは大正解だったという佐藤さん。
「『神戸・兵庫から出資を受けています』と言うと対応が格段に良くなるんです(笑)。要望としてはもっとLCCを呼び込んでほしいということですね。小型機をたくさん就航させれば神戸の経済はもっと活性化されます」

官民連携ファンドを含む今後の展開について
今後、神戸がどういう成長をしていこうと思っているのかという細野さんの問いかけに対し、高見さんは次のように述べます。
「重要なのは、伸びる産業に対してしっかりコストをかけて投資していけるかどうか。そしてそれを長く続けられるかどうかだと思います。支援の内容ももっと濃くする必要がありますし、神戸市としても変わらなければいけないタイミングに来ていると感じます」
細野さんの「行政が投資をすることに対する批判や議論はないのか?」という問いに対しては、高見さんは次のように述べます。
「アメリカや韓国などの海外では官公庁がしっかりと投資をしている例は少なくありません。日本は今まで積極的に取り組んでこなかったのですが、人口が減り、税収が減ると、投資用の予算の捻出が難しくなります。まだ投資を行う余力があるうちにファンドという形で資金を運用するというのは理にかなったことだと思います。我々としてはファンドがあるゆえに長い目で見た投資も可能になると考えています」

質疑応答:官民連携ファンドの実情は?
セッションの最後には質疑応答の時間が設けられました。
「官民連携ファンドは本当にうまくいっているのか実情を知りたい」という質問に対し、
「資金的なパフォーマンスだけでなく、スタートアップの方々の神戸や兵庫への貢献というところも含めて考えるとかなり大きなお釣りが来ると感じています」と述べるのは高見さん。さらに次のように続けます。
「官も民もみんながWin-Winになるような形に持って行きたいので、そのような仕組みをしっかり生み出せるように、さらに注力していきたいと思っています」

二つのセッションが終わった後はネットワーキングタイム。神戸の日本酒や軽食なども用意され、活発に意見交換などが行われました。